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ライブラナチュテラピー株式会社 社長ブログ
ライブラナチュテラピー株式会社
アロマテラピーブランド「ライブラナチュテラピー」商品の製造販売やサロン運営、「ライブラ香りの学校」の運営など、全国を拠点として「セラピー」「癒し」をお届けしています。
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コンプリートブック下巻 のぞき見 その2 続「ケーススタディ」
ケース4 「もっと強く!」
(クライアント像)
30代後半の女性が情報誌のみを手に握り締め来店されました。ご予約時から、非常に言葉数の少ない方であるということはわかっていたのですが、単に無口なクライアントは結構多く、さほど気にもとめていませんでした。しかし、来店後、単なる無口な方ではない事に気付きます。このクライアントは入店から全くの無表情。加えて不自然なほど射るようにこちらを凝視されていました。こちらの問いかけにはほとんど、頷かれるか首を振られるかという答え方が主でした。私の目を食い入るようにじっと見つめ、「とにかく肩をしっかり揉んでほしい」と一言おっしゃったきり、目をそらし黙り込まれました。
(トリートメント中)
静かなお客様は珍しくなく、トリートメント前にはあまり話さない方も多くいらっしゃいます。これまでにも様々なお客様と接してきましたが、アロマテラピーのトリートメントは言葉を使わないコミュニケーションが図れること自体が「売り」であり、言葉数が少ないこと自体はそれほど問題ではないと考えるようにしました。ですが、このクライアントは不自然なまでに全くの無表情でこちらを凝視され、私自身が動揺するまいと思えば思うほど、空気が張り詰めて行くように感じました。張り詰めた空気の中、クライアントからの唯一の情報である肩のこりを、何とか楽にして差し上げられればもう少し表情も緩むかもしれないという、祈るような気持ちでトリートメントは始まりました。
最初の問題が起こったのは背部のトリートメント時でした。僧坊筋上部を通常よりは強めに揉捏しながら
「力加減は強めたほうがよろしいですか?」と問い掛けると、
「もっと強く」
「この位ではいかがでしょうか?」
「もっと強く」
恐縮するほど何度もこの会話が繰り返され、
「申し訳ございません、これ以上強く致しますと揉み返しが起こるといけませんので…」
と断りを入れ、かなりの所要時間オーバーで次の部位に進みました。

更なる問題が起こったのは全胸部(デコルテ)のトリートメントに入ってからです。
多くのクライアントが寝息を立てる、そうでなくともかなり呼吸が深くなりリラックスされていることがこちらにも伝わってくる部位です。
ところが開始時とまったく変化は無く、クライアントは浅い浅い呼吸のままです。どう触れればもう少しリラックスしていただけるのかと、半ば途方にくれるような気持ちでお身体に触れていました。鎖骨下の非常にデリケートな部位に拇指を滑らせているとき、ドキリとするような大きめの声で、
「もっと強く!」
とのご要望(というよりお叱りに近かったかも知れません。)を受け、背部同様に力を強めてみるのですが、一向にご満足いただけません。
(ここでお断りしておきたいのですが、私自身は決して力が弱いという訳ではなく、握力も強いほうであり、トレーニングを受けている間は常に、もっと弱くするように指導されていました。)
アロマテラピーのトリートメントは本来ソフトなものであり、部位的にも非常にデリケートな部分でしたので、圧を強めるとは言っても限度があります。
ソフトなトリートメントであることは事前にご説明もさせていただいていたのですが、
「もっと強く」
とおっしゃるクライアントに戸惑いながら、恐る恐る両拇指の色が白く変わりプルプル震えるほど押しても、
「もっと」
「まだ」
と言い続け、首を振り続けるクライアントに私はなすすべもなく、
「申し訳ございません、これ以上強くは致しかねます」
とお詫びすると
「ぜんぜん効かない、気持ちよくない。」
とずっと首を横に振り続けられるのでした。
セラピストの私にとっては死刑宣告を言い渡されたに近いショックな言葉であり、ただひたすら申しわけなく、自分の力不足が情けなく、トリートメントが終了してからも平身低頭し、
「ご満足頂けるトリートメントが出来ず、大変申し訳ございませんでした」
と丁重にお詫びしたときには、クライアントは何も言わず、口の端に諦めの笑みを浮かべられているだけでした。この方が来店され、唯一見せた表情が、この諦めの笑みでした。
この件があってからしばらく、私はスランプに陥り、毎日毎日そのことを考えつづけました。自分にはこの仕事は向いていないのではないか、今まで「気持ちよかった」と言って下さったクライアントの方々の言葉は、社交辞令だったのだろうか、この先続けて行けるのだろうか…。
色々な人にこの事を話し、色々なアドバイスをもらっても、どれも違う気がしましたし、その時、私の関心は自分にしかありませんでした。まさにそのことが、件のクライアントを諦めさせてしまった原因ではないかと気づいたのは、それから何ヶ月も経ってからのことでした。

あのクライアントは、本当に肩こりだけが辛かったのだろうか?
本当に肩がこっているだけならば、強い刺激がお好みならば、整体や他の圧の強い施術を選んだのではないか?言外に何か伝えたかったことがあったのではないだろうか?
「もっと強く」の言葉を聞こえたままに受け取ってよかったのだろうか?
彼女の「もっと強く」はもしかすると、「私を受け入れて、大切にして」という意味ではなかったかという考えが浮かんだとき、あの日の自分自身が強く強く悔やまれました。

全くの無表情のクライアントがサロンに入ってきた瞬間に私が感じたのは、
紛れも無く「恐れ」であり、私は決して彼女を「受け入れて」いなかったのです。
セラピストに望まれる、愛をもってもてなそう、受け止めよう、受け入れようとする気持ち、何があっても自分を大切に扱ってくれるという安心感、そのようなものは、「恐れ」で心を一杯にしていた私からは、一切感じ取っていただけなかったことでしょう。
気難しそうなクライアントを前にした私は、恐れ、緊張し、自意識に囚われていました。
「緊張する」という感情自体が、自分自身へ眼が向けられている証拠であり、このクライアントに叱られたら嫌だな、クレームになったらどうしよう、こんな難しそうな方、どうして自分にあたってしまったのか… 正直そのように考えなかったとは言えません。
おそらくこのクライアントは、敏感にそれを察知されたのでしょう。
言葉に対してとても不器用な方だったのかも知れません。
望んでいたものが得られないという失望と、それでもセラピストからの温かい気持ちを望む強い思いがそこにはあったのではないかと思います。
本当の答えは今もこれからも解りませんし、私の反省も、後悔も、決してあのクライアントには届きません。明らかに不満を感じさせてしまったのですから、このような場合、もう一度足を運んでくださることはかなり難しいでしょう。あの方は沢山のことを教えて下さいました。

●アロマテラピートリートメントには身体を揉むという行為だけではなく、クライアントの心の苦しさをも受け止める準備が必要な事
●セラピストは言葉以外のクライアントから滲み出る情報を、全神経を集中して収集しなければいけない事
●セラピストはお客様がどのような状態、態度でも、自身の精神状態をニュートラルな状態に保ち、動揺しない訓練が必要な事

などがそうです。
全て、今まで勉強したことであり、セラピストの心得として頭では解ったつもりでいたことばかりではありましたが、本質的には何一つ理解していなかった、そのこと自体を、彼女が教えてくださったのでした。
叶わない望みかもしれませんが、私はそれでもいつかまたあのクライアントにトリートメントをさせて頂けないものだろうかと思いつづけています。
私にとって非常に厳しい経験ではありましたが、一番大切なことを忘れていた私に、セラピーという仕事の本質的な意味を教えてくださったのがあのクライアントだったのだと思い、大切な教訓を頂いたことに心から感謝しています。

アロマテラピーコンプリートブック下巻 (BABジャパンより刊行予定) より
by libranatutherapy | 2006-06-16 00:53 | 執筆活動・書評
 
 
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